雇用リスクとは?
第2回 採用や待遇のリスク

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リスクマネジメント採用

1. 採用における雇用リスク
2. 退職や待遇などの雇用リスク
3. 採用や待遇における雇用リスクの対策

外国人労働者の採用、定年後再雇用など、人材採用において企業が考慮すべき事項は複雑化しており、加えて、転職等による退職や採用の辞退など、欠員や技術継承問題のリスクも存在します。他にも雇用形態の多様化への対応や従業員による犯罪など、2024年11月18日に配信いたしました「第1回 安全配慮義務の対策」以外にも様々な雇用リスクが存在します。

1. 採用における雇用リスク

各種法令違反等、企業としての責任を問われる問題だけではなく、求める人材とのミスマッチや職場環境に悪影響のある従業員は、容易に解雇はできないため、採用時のリスク対策はとても重要です。

不適切な採用やミスマッチなどの採用リスク

新たに人材を採用した結果、会社に不利益をもたらしてしまうようなリスクを採用リスクと言いますが、この不利益には、その社員が犯罪を起こすなど明確なものもあれば、その社員の言動や行動により社内の調和が乱され、雰囲気が悪くなり、既存社員の退職を招くという事態に発展するケースに及ぶこともあります。反社と関わりのある人物の採用なども会社に不利益をもたらします。また、ミスマッチな採用をしてしまうと、企業だけでなく採用された人員にとっても不利益となり、結果的に退職し欠員となることや、適切な配置が困難なまま雇用し続けなければならないなどの問題が発生する可能性があります。

外国人雇用や副業での雇用時の採用リスク

外国人雇用においては、不法就労などの法令違反が無いことの確認が必要なのはもちろん、言語や文化の違いを受け入れられる体制も必要となります。
また、副業や兼業で人材を採用する場合は、本業の労働時間を確認し、法定労働時間の違反がない条件で採用しなければなりません。

定年後再雇用のリスク

日本では60歳定年制が一般的ですが、本人が希望する場合、原則として定年後65歳までの定年後再雇用が義務づけられており、再雇用条件などでトラブルとなる事例が増加しています。給与や役職、職務内容の他、他の一般社員との待遇について「同一労働・同一賃金」の理解が得られず、社内から不満が出るようなこともあります。

新卒採用のリスク

新卒採用の3年以内の離職率が3割を超えていることはよく耳にしますが、雇用後、早期に欠員が出るリスクがある他、それ以前の内定辞退のリスクなどもあります。また、職務実績がないため、期待している能力と実際の能力に差がある可能性も考慮し、企業側が求める人材の基準を明確にしておく必要と受け入れる教育体制が求められます。

2. 退職や待遇などの雇用リスク

日本には終身雇用の企業もまだまだ存在しますが、仕事に対する価値観も大きく変わり、転職を繰り返しステップアップ(キャリアアップ)する人やワークライフバランスを重視する人など、必ずしも正社員での長期雇用が望まれる時代でもなくなりました。企業側もこういった変化に対応せざるを得ない現状で、多様な雇用形態への対応に伴う待遇や欠員のリスクも考慮しなければなりません。

待遇で考えなければならないリスク

残業代や休暇取得などは、タイムカード等による明確な時間管理の他、申請、取得のしやすさなども考慮しなければ、社員の不平不満の発生や場合によっては訴訟に発展することもあり得ます。また、性別や年齢、雇用形態などによる不適切な待遇や不公平、差別などは不当待遇として罰せられることもあります。

退職、解雇のリスク

日本では会社都合で自由に社員を解雇することはできません。そのため、問題のある社員であっても、改善を促すなどの適切な対処を行った上で退職勧奨する必要があります。社員が退職せざるを得ない状況に追い込まれたと認識すると、不当解雇となり、訴訟問題に発展し、多額の損害金の支払いを求められることもあります。その他に、退職者が社内の情報を持ち出し転職先で利用して問題となるような事例も多々あり、退職後のリスクも考慮しておく必要があります。

非正規雇用のリスク

契約社員やアルバイトなどの非正規雇用は、必要時に増員し不要時に削減しやすいというメリットがありますが、非正規人材の獲得は競争が激しいことも多く、採用して育成した人材が契約期間満了後に競合先でより良い条件で採用されるなどといったこともあります。また、契約時の業務内容以外の仕事は依頼できないことや社内にスキルやノウハウが残らないことも加味した上で、適切な雇用を行う必要があります。

3. 採用や待遇における雇用リスクの対策

採用における対策としては、役員や役職者などの重要ポジションで採用する際はバックグラウンドチェックを行ったり、一般採用の際は試用期間を設定し、その試用期間中にテーマを与え、チェックポイントを設けて面談を行うといった工夫や雇用時の雇用契約の条件の見直しなどがあります。また、ミスマッチを防ぐには、リファレンスチェックも有効です。また、社内環境や待遇、セキュリティなどの対策には、社内規定や組織、設備などでの対応が必要となります。

採用時の調査

採用する人材のポジションや役割によって調査の必要性は異なりますが、犯罪や反社との関係などで問題が発生した場合、企業に大きなダメージを与えることとなるため、慎重に検討する必要があります。

・ バックグラウンドチェックを実施し、実績や経歴・前職までの退職理由等を確認する
・ 反社チェックにより、反社との関わりが無いことを確認する
・ リファレンスチェックを行い、第三者視点の人物像を確認する

※ 参考 過去記事
採用リスクを回避するバックグラウンドチェック(経歴調査)とは
採用時にネガティブ情報をつきとめるバックグラウンドチェック
注意義務となっている反社チェック
企業が行うべき反社チェックとは
採用調査で重要性が増しているリファレンスチェック

雇用時の条件

試用期間を設けることで、ある程度の能力や人物像を把握できるため、配置等の参考にすることはできますが、試用期間後の不採用は解雇と同様に簡単にできるわけではありません。非正規社員や様々な雇用形態も吟味し、法令に遵守した雇用契約のルールを作ることで、不公平や不満の発生しない雇用を行うことが大切です。

・ 雇用契約書交付の義務はありませんが、条件を明確にした書面を交わすことで、使用者と雇用者が認識を一致させておくことが大切です。
・ 試用期間や正規雇用の給与や昇給、減給、残業や休暇等の条件を明記する
・ 試用期間中に雇用に不適格であると判断される場合、正社員採用を拒める事項への応募者の承認サインが必要です。
・ 職務内容や異動、転勤なども含めた雇用条件を明記する
・ 雇用時に、定年後再雇用時の条件を雇用契約条件に含めておく
・ 雇用契約書とは別に守秘義務の誓約書を用意する

その他

様々な雇用体系に対応するには、受入体制を整える必要があります。また、勤怠管理のシステム化やセキュリティ対策なども必要となりますが、組織や設備の対応については、雇用リスクだけで考えるのではなく、他のリスク対策と合わせて対応することが望ましいと言えます。

・ 外国人雇用で言語や習慣の違いを受け入れられる組織体制や設備の用意
・ 採用プロセスや内定後フォローなど採用担当組織の改善
・ テレワークなども加味した勤怠管理のシステム化
・ 防犯カメラの設置や入退室管理、警備員の配置などによる防犯対策
・ 定期的に従業員の状態の把握と改善が行える体制や組織の構築
・ 不平不満や差別などを把握するための社員向け相談窓口の設置

 

前回は雇用と同時に安全を守る義務についてのお話でしたが、今回は雇用した人の行動によって企業に影響が及ぶリスクについてのお話をさせていただきました。雇用リスクは企業が抱えるリスクの一つであり、対策としては雇用リスクのみで考えるのではなく、企業のリスクマネジメントの一環として、総合的にリスク管理を行い対策することが望ましいと言えます。

株式会社TMRでは、リスクマネジメント体制の構築支援を行っています。組織体制の最適化支援や内部通報制度、従業員研修による意識改革など、独自のノウハウと事案発生の企業や弁護士事務所からの多岐にわたる問題解決で得た豊富な実績を元に効果的な支援を行っています。