自社の内部統制は本当に機能していますか?
【第2回 内部統制の体制づくり】

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リスクマネジメント

1.内部統制の体制づくりを行うためのステップ
2.内部統制の体制づくりでトラブルが発生した事例
3.内部統制の体制づくりで発生し得るリスクを未然に防ぐポイント

1.内部統制の体制づくりを行うためのステップ

内部統制は、「企業が健全な経営を行うためのルールを適用し、それを遵守できる」体制を構築することと言えます。また、金融商品取引法では財務報告に係る内部統制が制度として定められています。これらを踏まえた内部統制の体制づくりを行うためのステップは次の3つとなります。

(1)基本計画・方針の策定

企業は、内部統制の基本方針を踏まえて、内部統制を組織内の全社的なレベル及び業務プロセスにおいて実行するための基本計画や実施内容を決定します。経営者が定めるべき基本的計画及び方針の主なものとしては、以下の3つの項目が挙げられます。

① 内部統制の体制づくりの方針とルール、統制の度合
全社の方針をもとに、部署、業務、機能といった各単位で実施するための計画・実施内容を決定します。具体的には、部署、業務、機能ごとのリスクの分析・評価を行い、統制の範囲や度合を決めます。また、既存の規定や慣行など、暗黙の了解になっているような決まりごとも客観的にわかるよう明文化します。

② 内部統制の体制づくりに当たる責任者と管理体制
統制の範囲を管理・推進するため、の各単位に責任者を指名・任命します。

③ 内部統制体制づくりの手順及び日程
必要な情報を周知徹底するためのフローや手続きを決めます。また、内部統制の体制が有効に機能しているかどうかの評価方法やモニタリングスケジュール、内部統制に係る教育・訓練方法やその日程なども合わせて決定する必要があります。

(2)重要拠点のリストアップ

支社や支店がある場合は売上高などの具体的な基準を用いて金額の高い拠点から合算して、全体の一定割合に達するまでの拠点を内部統制の体制づくりの重要拠点として選出します。拠点には支社・支店や事業部はもちろん子会社も含まれます。支社や支店が無い中小企業等においては会社全体の売上の大半を占める主要な売上部門を対象とします。

(3)業務プロセスに係る統制方針の策定

全社的な方針等を踏まえて、業務プロセスに係る統制の範囲、方法等を決めます。一般的には「売上」と「売掛金」、「棚卸資産」は重要な財務指標とみなされ関与する業務が統制の対象となることから、前項の売上による重要拠点と並行して、財務指標に関与している業務プロセスは基本的にすべて統制の対象になります。置かれた環境や業種特性によっては、一般的な指標とは異なる指標を用いて統制の対象を決めることもあります。

例えば、重要度の高い業務プロセスは、個別評価を行います。具体例としては、リスクが大きい取引を行う業務、新規取引の見積りチェックなど経営判断を伴う業務などが挙げられます。その他、非定型・不規則な取引で虚偽記載が発生するリスクが高いと考えられるものについても特に留意すべき業務プロセスとして対処します。

2.内部統制の不備事例

(1)地方都市の中堅企業の製造業A社

地方都市の中堅企業である製造業A社は業容拡大の必要性に迫られる中、それまで未経験のEC事業に進出しました。顧問としてアドバイスを要請した外部協力者主導の下、新規市場に進出したものの、新規取引先との契約内容に不備があり、不適切な取引が行われていたことが事後に発覚しました。外部協力者が顧問という立場であったこともあり、外部協力者が主導した取引に対して統制が何も行われ(何のチェックも)ない状態であったことが、発覚を遅れさせ、大きな実害を発生させてしまった事例といえます。

(2)首都圏にある企業向けサービス提供企業B社

首都圏にある企業向けサービス提供企業B社は、前代表により取引先に対する社内決裁規定を超えた金融支援や滞留債権の入金消込の操作などの不適切な経理処理が行われ、経営者交替後に判明しました。この不適切な経理処理は前代表の独断で行われ、取引実態や回収可能性に対する報告を怠るだけでなく、事実を隠蔽するため滞留債権の発生を遅延させたことが発覚しました。これは経営層に対する統制が行われていない事例であり、経営層に対しての統制も必要であるという認識がないことや、見落としている事例が多々あります。

上記の事例では、いずれも内部統制報告書の訂正が求められました。これ以外でも内部統制報告書の訂正が求められた企業の中には決算修正を余議なくされた企業も多く見られます。また、決算報告の内容に重要な欠陥があることで、会計不正事件としてメディアで報じられるケースもあり、企業の信用を著しく低下させる結果となります。内部統制が正しく運用される体制が構築されていない場合、このような大きなリスクを抱えている危険な状況にあるとも言えます。また会社法では、一定規模以上の企業を対象に子会社や関連会社にいたるまで倫理規範や定款、法令などに照らして業務遂行できる体制の確保を図ることが求められています。

3.内部統制の体制づくりのポイント

会社全体として正しくルールを理解して遵守できるようにするには、企業としてのリスクをあらかじめ分析し、リスクを排除できる具体的な統制策を講じておくことが重要です。まずは、想定されるリスクをリストアップして、重要度と発生可能性の観点から優先順位をつけ、統制内容を決めていきます。「不当取引」というリスクを避けるため、予め「内部通報制度」を導入するといった統制などが挙げられます。

リスクを統制するための手段・方法は、リスクの重大性・業務内容に応じて、自由に決めることができますが、企業ごとにより運用しやすい体制は異なることもあり、効果的な体制を最初から構築することは難しいです。最初からあらゆるリスクに対して厳格な内容を設定しがちですが、厳しすぎる内容を設定すると管理コストがかかりすぎたり、萎縮して本来の企業の強みを損なってしまったり、というような逆効果を発生させてしてしまうこともありますので、少しずつでも継続して改善、更新していく体制と全社員が内部統制を正しく認知し、運用していける体制を構築することがもっとも大切と言えます。

このように内部統制については、統制の内容はもちろん大切ですが、体制づくり自体が大きなポイントと言えます。統制内容や体制づくりに関しては、実績豊富な専門会社のサポートを受けることも有効な方法のひとつです。

 

第3回では「内部統制の効果的な運用」について掲載する予定です。

株式会社TMRでは、内部統制の体制づくり支援を行っています。外的要因リスクのひとつである倒産などによる焦げ付きを発生させないための取引先の企業調査情報なども含め、しっかりしたルールで与信管理を運用できる体制づくりのお手伝いはもちろん、プライバシーを十分に考慮した顧客からの相談窓口設置や、内部統制のモニタリングで必要となる内部告発などを含む従業員用の相談窓口など、各種相談窓口の設置および運営なども承っております。踏み込んだ内部監査サポートとして、不正・不祥事発生時の現場調査や取引先アンケートによるヒアリング調査、内部通報制度の構築支援などの他、内部統制のルールを実現するための施策や規定づくりなどについて保有するノウハウの他、これまで長年にわたり行ってきた企業調査の実績による知見も含めた支援をご提供することが可能です。